精神障害者家族と扶養義務


島根県精神障害者福祉会連合会
会長 辻 豊


●精神障害者に対する差別と偏見の中で

・家族に対する過重な偏見の中で

 世間には精神障害者に対する差別や偏見があり、些細なことで親や家族が注意を受けたり、親だからと責任を取らされるといった状況があると聞いている。また、精神障害者が引き起こした事件報道があるたびに、世間での評価を気にしてしまい障害当事者や家族は肩身の狭い思いをしている。そして親自身も高齢化していく中で扶養することや将来に対する不安を持ちながら暮らしていると言える。


・自立と保証人について

 自立とは、人に依存しないで生きていくことである。そして、自立に必要なことは、経済的に自立することと働く(日中活動すること)こと、住むことである。しかし、現在の障害年金の金額だけでは自立することはできない。また、不足する金額を儲けるための職場もなければ、住むところを探すことも容易なことではない。また、日本においては入院治療を受けるにも、施設を利用するにも、アパートを借りるにも、就職するにも保証人が必要である。その保証人は基本的には扶養義務者であるが、中でも親兄弟が一番多い。
 保証人は、主に契約終了時の引き取り義務や使用料・利用料不払いの際の支払い義務、事故ある時の監督責任を背負っている。つまり、何か事があれば責任は親兄弟に及ぶということである。
 これで本当に自立が進むのであろうか。何もない時には問題とならないが、何か問題が起きた時これらの義務を親兄弟が当然負うべきであると誰もが信じて疑わない間は、これらが自立を支えていく上で大きな障碍となるし、自立支援(アパートなどでの暮らし)が進んで行かない要因にもなっていると考えている。
 また、患者が長期の入院をした場合や、病気や障害の程度が重くなった場合、家族が病気になった場合など、より状況が深刻になった場合にはその後自立より家族での介護や扶養を勧められることが多い。当然家族の介護負担が増すことになる。つまり助けが必要な時に援助がうすくなるのである。これでは、長期入院者が増える一方で社会的入院が減らないのも理解できるし、在宅サービスより施設サービスに集中するのも理解できる。


・扶養義務と損害賠償請求

 精神障害者が起こした事件で、刑法第39条の規定により心神喪失、心身耗弱とされた場合には罰せず、または刑を減じるということになっている。しかし、刑事では減刑ないし罰せられなくとも民事で損害賠償請求されることが多い。現在も控訴中の事件であるが、一審で家族に対して1億円の損害賠償請求の判決がなされた事件がある。この裁判は他人事ではなく、まさに家族に突きつけられた問題であるとも言える。事件が起こるたびに世間では家族の監督責任を問う声をよく聞く。しかし、世間で言うように事件を起こさないようにするには患者を監視するしか方法はない。そのようなことは現実的ではないし、本人や家族にとっても耐え難い苦痛でしかない。これでお互いが自立した関係を築ける訳がない。難しい問題ではあるが、病気に対する偏見を取り除く努力を進める一方で、不幸にして犯罪被害に遇われた方々への国家賠償の充実と、犯罪被害者へのメンタルケアが今後より一層進んでいくことを念じて止まない。


●精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に規定する保護者制度

・保護者とは

法第20条 精神障害者については、その後見人、配偶者、親権を行う者及び扶養義務者が保護者となる(中略)
2 保護者が数人ある場合において、その義務を行うべき順位は、左の通りとする。但し、本人の保護のため特に必要があると認める場合には、後見人以外の者について家庭裁判所は利害関係人の申し立てによりその順位を変更することができる。
一 後見人
二 配偶者
三 親権を行う者
四 前二号の者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者
3 略


・保護者の義務とは

法第22条 精神障害者に治療を受けさせ、及び精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。
2 保護者は、精神障害者の診断が正しく行われるように医師に協力しなければならない。
3 保護者は、精神障害者に医療を受けさせるに当たっては、医師の指示に従わなければならない。


・医療保護入院

法第33条 精神病院の管理者は、指定医による診断の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要があると認めた者につき、保護者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。


・親なき後の福祉は確立できたか

 以上、精神障害者を抱える家族の立場から扶養義務について検討してきた。現在、自己決定の考え方の浸透や社会復帰、生活支援の施策は充実しつつある状況といえる。
 しかし、親自身が高齢化していく中でこの扶養義務は大きくのしかかってきており、加えて兄弟姉妹間での扶養もそれぞれの生活もあり進まない状況と認識しており問題と考えている。他方、世間にしてみれば「親孝行」という言葉が指し示すように高齢者、障害者の面倒や介護は親兄弟でみるのが当然という風潮が今でもあるし、当然民法にも扶養義務は規定されている。
 しかし、家庭環境の変化や核家族化、人口の流動の進展に伴う都市化や過疎化の中で家族構造が大きく変化してきていることを認識していない人もいまい。
 このように、家族構成が大きく変化し家族で支えあう力が低下している現状で、家族介護するのは当たり前、扶養責任を持つのが当たり前という風潮がある限り家族も障害当事者もお互いの扶養と監督との相互依存関係の中で自立できず、結果として不幸な結末を迎えるのではなかろうかと危惧している。
 私たちはそろそろ本気で「自立」について考える時代に入ってきたのではなかろうか。中には、高齢者を介護している家族の中からさえ「私たちの世代では考えを変えることは無理」と話される方もいる。もちろん今すぐにこの現状が変わるとは思っていないが、「扶養と自立」の問題を先送りすることなく考えていきたいものである。そうすることで、住みよい社会、ノーマライゼーション社会が到来するのではないだろうか。
 今後、理念の浸透とともに地域精神医療・保健・福祉の発展とともに第三者後見も含めた成年後見制度の幅広い浸透や今後公的保証人制度が創設され充実、発展することを念じて止まない。



homeknapp.htm_txt_WB01508_.gif (438 バイト)        backknapp.htm_txt_WB01508__2.gif (426 バイト)

 

WB01417_.gif (1759 バイト)

管理人より: このページの内容、及び文書・画像の無断使用、無断掲載はお断りします。