
ノーマライゼーションは、ハビリテーションを可能にする、
一つの社会的な過程です。
私たちは一般的に、機能障害を持つ人に対して、リハビリテーションという言葉を
使います。機能障害を持つ人をリハビリして、矯正したり、訓練や学習をする中で、
機能障害を持つ人が社会で普通の暮らしが出来るようにするということです。
リハビリテーションは、治療・回復・復帰などの意味を持ちますが、、知的な障害を
持つ人は、何を治療するのでしょう。生まれた時から機能に障害のある人は、
どうやって回復させるのでしょう。また、元々社会で生きているはずの人は、
何処に復帰するのでしょう。
生まれた時から機能に障害を持つ人を、いわゆる健常者の社会に近づけようと
すると、これらの問いには答えがありません。
私たちが、リハビリテーションでなく、「ハビリテーション」という概念で考える時、
この問いに答えることが出来ます。
つまり、生まれつきや早い時機から機能に障害を持つ人は、矯正したり
訓練することによって回復させる対象ではなく、私たち周りがその人たちを
包み込み、それぞれの状況を支援することによって、
共生をしていくという事です。
ハビリテーションと、リハビリテーション。
定義
Habilitering (Psykologilexikon, Red: H. Egidius, 1994)
ハビリテーション
ハビリテーションとは、生まれつきあるいは早期に障害を受けるか病気などにより、その機能の低下あるいは損失のある者の、最大限の機能の働きと快適な精神的・身体的状況の発達を全面的に促進させる事である。
保健・医療局のハビリテーションにおける目標は、個人の社会における参画の条件を改善して行く事にある。またこれは、医療・心理・社会及び技術などの専門分野が統合され全面的な貢献により成り立つ、医療的・社会的な目標である。これらの貢献は、個人のニーズ、条件と関心を基盤としなければならない。
もし、成人や年長の子供などが怪我をしたりすれば、その怪我の部分を治すための治療をして、以前の生活や活動が出来るように、出来るだけ「再適応」しようとする。いわゆる、リハビリテーションである。
しかし、それが障害を持って生まれたり、生後間もなく障害を持つようになった子供に対しては、「再適応」することは出来ない。だが、「適応」するように、つまりハビリテーションをすることによって、出来るだけノーマルな生活が出来るようにすることは可能である。
ハビリテーションとは、早期に障害を持つ子供に対して与えられる、医療的、教育的、心理的、社会的な観点からの支援である。
Rehabilitering (Psykologilexikon, Red: H. Egidius, 1994)
リハビリテーション
病人、あるいは障害を受けた者に対し、その機能を最大限に回復させると同時に、機能の低下や損失、怪我や病気の場合に、精神的・身体的な快適さを得られるよう援助するための、医療的、心理的、社会的、職業的な処置の総称的概念。
保健・医療局のリハビリテーションにおける目標は、個人の社会における参画の条件を改善して行く事にある。またこれは、医療・心理・社会及び技術などの専門分野が統合され全面的な貢献により成り立つ、医療的・社会的な目標である。これらの貢献は、個人のニーズ、条件と関心を基盤としなければならない。
ハビリテーションの考え方
もともと、リハビリテーションはラテン語のHabil
(有能、役立つ、生きる)という言葉から生まれ、その
リハビリテーションという概念や言葉は、今では福祉の世界というより、私たちの普段の生活の中で、いろいろな場面で使われています。しかし、この概念が使われ始めたのは、それほど昔の事ではありません。
第2次世界大戦の最中、1940−41年にイギリスはドイツによって爆撃機による空爆を受けました。これに対しイギリスでは戦闘機で対抗しましたが損害も大きく、多くのパイロットを失いまた多くが損傷を受けました。パイロットの養成には時間もかかり、イギリスではこれらの損傷を受けたパイロットを系統的に治療し、再び戦場に向かわせました。
またそれ以外にも、身体的機能障害を持つ人たちを、軍事工業や労働市場に送り込む試みも行われました。それには、機能障害を持つ人がそのハンディカップを持って出来ることを行うことを前提に、身体的・精神的な訓練を体系的に行いました。
大戦に参加した国々では、このように軍事産業や労働市場での労働力不足を補う必要あり、特にイギリスでのこのようなリハビリテーションの試みは、大きな成果をもたらしました。
また、戦争には参加しなかったスウェーデンにおいても、近代になって産業化が進み、生産という事が社会生活の基盤になると、病気であったり機能に障害を持つ人を含め、治療による社会復帰という事が社会政策の上で重要な意味を持つようになりました。
40年代の後半、戦後の時期には、特にイギリスやアメリカで、このようなリハビリテーションの経験を、戦争による心身の疾患患者や成人の機能障害者だけでなく、特に脳性マヒによる機能障害を持つ児童の分野においても取り上げるようになりました。
同時に、精神医学や心理学などの分野での研究が進み、心身に障害を持つ子供たちへの特殊教育が始まり、療育としての施設も増えてきました。また、社会保険などの制度化も進み、こうして、「身体的、心理的、社会的、職業的な能力が持てるまでに回復させ、社会参加を目指す」という、リハビリテーションの概念が社会的に定着してゆきました。
50年代に入ると、これらの生まれつき身体障害を持つ児童に対するケアの中で、児童やその家族などの状況やニーズへの関心や理解が深まり、特にイギリス・オランダ・アメリカなどで児童に対するハビリテーションの考えが発達してきました。
そして、スウェーデンにおいてもこの新しい治療に対する考え方が広まってゆき、施設や今まで家庭の中で隠れるように住んでいた脳性マヒによる障害を持つ児童たちに対して、理学療法の治療や知能能力刺激などの治療を始めました。
そして、やがて児童教育界でも、「生まれつき、あるいは早期に機能障害を持っている児童は、回復という次元で治療・療育することは出来ない」、という観点が広まりました。
生まれつき機能障害を持つ児童、あるいは自閉症やその他の早期に障害を持った児童は、「元に戻す」というのではなく、その状況を基点として、その人の持つ機能の発達に焦点を当てなければならないわけです。つまり、回復を見込んで治療するのでなく、その機能を有能化して行くという事です。
ハビリテーションチーム
スウェーデンにおいて、ハビリテーションはリハビリテーションと同じように、県自治体によって行われます。医療・教育・心理・社会およびテクニカルサポートによる連結された総括的な対処はリハビリテーションの体系と似ていますが、機能の回復や元の状態に戻すように治療することでなく、その人の持つ機能を生かすことへの支援として性格付けられています。
この連結された各分野の取り組みはハビリテーションチームと呼ばれ、児童ハビリテーションと成人ハビリテーションとに別れて、機能障害を持つ人の全人生期間にわたって支援が行われます。
児童ハビリテーションチームと、その役割の1例。
職種
内容
作業療法士: 介助器具、住宅適応、ADL訓練、随意運動能力・知覚能力向上など。
幼稚園教師: 幼児教育訓練、ADL訓練、幼稚園にたいしてのサポートなど。
ハビリテーション医師: 診断、情報、医療的治療、コーディネーション。
ケースワーカー: 家庭対応、危機状況対応、社会適応支援など。
言語療法士:
言語障害に際しての診断と訓練、コミュニケーション・トレーニング、
食事訓練など。
心理士: 脳心理学的診断、発達状況へのフォロー、心理学的治療、危機対応。
理学療法士: 随意運動能力診断と治療。
看護士: 介護に関してのエキスパート、食事療法や排泄に関する問題など。
技術士: 介助器具などの適応性、開発など。
成人ハビリテーションに関わる職種もほとんど同じですが、訓練・治療というものは少なくなり、そのかわり周りからの支援をサポートする姿勢になります。
ストックホルム県内には、児童と成人ハビリテーションセンターが合わせて13個所あり、これらハビリテーションチームがおかれています。
治療について
治療というのは、一般的に医療において病気や疾患を治すことを言いますが、例えば英語に訳される"Treatment"やスウェーデン語の"Behandling"には、医療的治療の他に、「処置」「処理」あるいは「取り扱う」などの意味があり、人に対したり物に対しての扱いに使われます。
病気や怪我を治すのは医療的な治療ですが、ハビリテーションでの場合のように、能力を伸ばすための対処の仕方も、同じ"Treatment"や"Behandling"と呼ばれます。
つまり、同じ言葉を使いながら、医療的な治療と支援としての治療(処置)には、その目的と対応の仕方に違いがあります。
また、治療する側の姿勢にも違いが出て来ます。「周りに適応するように」持って生まれた障害を治療して「再適応」するのでなく、その人の能力を伸ばすことに視点を置きながら、その人の状況で社会参加が出来るように支援するのであれば、治療に携わる者は、単に障害に目を向けるのではなく、障害を一つの状況と捉え、本人の意思や状況に関しての関心を深め、その人とのコミュニケーションとニーズに対する理解と知識を深める事が必要になります。
ハビリテーションについては、広報誌ブレティーネン13号、14号ににも特集として掲載されています。
連載:ハビリテーション: ボー・ビッレ、インゲマル・オーロフ (「ブレティーネン」No.13,14
1999年1月、10月)
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